08. キャッシュレス決済が普及しない理由は?

細谷早紀(津田塾大学総合政策学部 4年)

2022.03.17

近年、多くのお店で、キャッシュレス決済可能の表示を目にするようになりました。現金を介した接触機会を減らせることから、新型コロナウイルスの感染対策としてもキャッシュレス決済が注目されています。

2018年6月21日に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」では、 大阪万博が開催される2025年6月までにキャッシュレス決済比率を4割程度とすることを目指すと発表しています。 また 、2018年4月11日に経済産業省「キャッシュレス検討会」が策定した「キャッシュレスビジョン」では、 キャッシュレス決済比率について、将来的に世界最高水準である80%を目指すとしています。

日本国内でのキャッシュレス決済比率は、年々増加しています。しかし、 2019年のキャッシュレス決済比率は26.8%であり、目標の値を大きく下回っています。また、 日本は他の先進国に比べて、キャッシュレス決済比率が低くなっています。2016年の時点で、 韓国では96.4%と高い数値となっていて、そのほかの国でも、イギリスでは68.6%、オーストラリアでは58.2%、 アメリカでは46.0%となっています。(「キャッシュレスの現状及び意義」より)。

日本のキャッシュレス決済が進まない理由については、法整備が複雑化していることや、消費者の現金志向が強いことなど、多くの背景が考えられますが、 ここでは、店舗側と消費者側に関わる理由をみてみましょう。



1点目は、店舗側の問題です。キャッシュレス決済の導入に対して、積極的ではない店舗もあります。経済産業省が2021年に実施した「キャッシュレス決済実態調査アンケート」では、回答した事業者のキャッシュレス決済導入率は約7割で、 残りの約3割の事業者は、キャッシュレス決済を導入していないことがわかります。

総務省の2020年度版「情報通信白書」に記載されている「図表2-2-2-16 キャッシュレス支払(クレジットカード)を導入しない理由」によると、 導入しない理由として、最も多かった回答は、「手数料が高い」ことで42.1%でした。次に、 「導入によるメリットを感じられない」ことが35.7%、「現場スタッフによる対応が困難である」ことが、 32.1%と続きます。


2点目はトラブルの増加です。消費者庁の2020年度版の「消費者白書」に記載されている「図表Ⅰ-1-6-23 「キャッシュレス決済」に関する消費生活相談件数」では、キャッシュレス決済に関する消費生活相談件数が 年々増えていることがわかります。クレジットカードの相談件数は、2010年から2019年までの間に、 約3倍に増加しています。利用件数の増加に比例して、トラブルも増えるものですが、トラブル件数の増加は、 利用者にネガティブな印象を与えると言えるでしょう。


キャッシュレス決済比率の数値目標を達成するために、2019年10月の消費増税に伴って 「キャッシュレス・消費者還元事業」が実施されました。また、マイナンバーカードやマイナポイントを活用した 「マイナポイント事業」も実施されています。今後、キャッシュレス決済件数を増加させるためには、 キャッシュレス決済促進のための取り組みを進めると同時に、この2点を含めた多くの課題を議論する 必要があるでしょう。

ただし、上記の店舗や消費者の事情を見る限り、一時的なポイント還元だけでは、キャッシュレスの利便性が伝わるには不十分と言えるでしょう。手軽な決済が進むことを社会全体のリソースとして活かすには、使う側に一層のリテラシーが求められることになります。 政策や制度が丁寧にその課題を克服してゆくことが必要ではないでしょうか。

使用した図表・バックデータ

1.

白書・審議会名 総務省「情報通信白書」 掲載年度 2020年
掲載図表のURL
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/image/n2202160.png
出典元 / 統計名   経済産業省 / 観光地におけるキャッシュレス決済の普及状況に関する実態調査
図表データ対象年 2017年
バックデータURL なし

2.

白書・審議会名 消費者庁「消費者白書 掲載年度 2020年
掲載図表のURL
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/2020/img/zuhyo-1-1-6-23.jpg
出典元 / 統計名   PIO-NETに登録された消費生活相談情報(2020年3月31日までの登録分) / 記載なし
図表データ対象年 2010年 〜 2019年
バックデータURL 
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/2020/csv/1-1-6-23.csv

3.

「成長戦略フォローアップ」(2020年7月17日)14頁 (https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/fu2020.pdf, 最終閲覧日2022年2月17日)

4.

経済産業省 商務・サービスグループ 消費・流通政策課 「キャッシュレス・ビジョン」(2018年4月)67頁 (https://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180411001/20180411001-1.pdf, 最終閲覧日2022年2月17日)

5.

経済産業省 商務・サービスグループ キャッシュレス推進室 「第一回の議論の振り返り、 日本のキャッシュレス決済比率、 決済事業者及び国の開示の在り方について」(2020年6月23日)8頁 (https://www.meti.go.jp/press/2020/06/20200626014/20200626014-3.pdf, 最終閲覧日2022年2月17日)

6.

経済産業省 商務・サービスグループ キャッシュレス推進室 「キャッシュレスの現状及び意義」(2020年1月)1頁 (https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/cashless/image_pdf_movie/about_cashless.pdf, 最終閲覧日2022年2月17日)

7.

経済産業省 商務・サービスグループ キャッシュレス推進室「キャッシュレス決済 実態調査アンケート 集計結果」(2021年7月19日)2頁 (https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618002/20210618002-1.pdf, 最終閲覧日2022年2月17日)