05. 自分の住んでいる地域が土砂災害警戒区域だった!?

コーエンズ英理(東北大学法学研究科 公共政策大学院 修士課程)

2021.10.04

日本は災害大国と言われています。日本列島の地形、地質、気象等の自然条件は、豊かな自然と四季をもたらす一方で、 地震、台風、豪雨等、様々な災害を引き起こします。激甚化している災害からどのように命を守れば良いのか。今回のコラムでは特に土砂災害に着目して、検討していきたいと思います。

土砂災害から人命を守るにあたって有効な対策はどのようなものなのでしょうか。ソフト・ハードから様々な施策が考えられますが、 自助としてはまず居住地域が土砂災害の被害を受ける可能性があるのか、本当に安全なのかハザードマップを用いて確認することだと考えます。

危険な区域の周知の法整備については、土砂災害防止法(正式名称:土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律,平成12年法律第57号)における 『土砂災害警戒区域(イエローゾーン)』と『土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)』の指定が言及できます。東京都建設局によると、住宅等の新規立地の抑制や警戒避難体制の整備などを 推進することが可能になりました。『土砂災害警戒区域(イエローゾーン)』は、土砂災害が発生した場合、住民の生命・身体に危害が生ずるおそれがあると認められる土地の区域です。 この区域に指定されると、災害時の避難が円滑なものになるよう自治体での整備が求められます。また、「土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)」は「土砂災害警戒区域(イエローゾーン)」のうち、 建築物に損壊が生じ、住民の生命または身体に著しい危害が生ずるおそれがあると認められる土地の区域です。この区域に指定された場合、一定の開発行為の制限や構造規制が義務付けられます。

土砂災害危険区域・土砂災害特別警戒区域への指定は年々増加しています。国土交通省の2019年版「土地白書」に掲載されている「土砂災害警戒区域等の指定状況」 によると「土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)」「土砂災害警戒区域(イエローゾーン)」共に右肩上がりで増加しています。国土交通省の令和元年版土地白書・ 愛知県の土砂災害防止法の概要によると、増加理由としては、①平成26年11月に土砂災害防止法が改正され、土砂災害警戒区域の指定等のための基礎調査結果の公表の義務づけ、 避難体制の充実・強化等が図られたこと、②新たな宅地開発に伴って、土砂災害が発生する危険性も増加していること、の2点が指摘できます。

異常気象に影響された土砂災害はこれからも増えていくことが予測されます。この状況下でいかに人的被害を減らし、命を守るための土砂災害対策を講じていくのか、 喫緊の課題として議論されるべきでしょう。

また、発災後の復興のフェーズにおいても、被害を繰り返さないために、十分な検証と対策を講じる必要があります。課題の一例としては、土砂災害被災地への移住がむしろ活発になることへの懸念です。 実例として、2018年の西日本豪雨で大規模な洪水を受けた岡山県倉敷市真備町が挙げられます。NHK WEBによると、豪雨により町の大部分が浸水被害を受けた真備町は、地価が下落し、 それに伴って土地取引価格が安くなりました。土地取引価格の下落と出費を抑えて住宅を建てるというニーズマッチが結果として被災地かつこれからも浸水想定がされている地域に土地を買い 移住する現象を生み出しています。

この事例と同じように、土砂災害の被災地かつ、「土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)」「土砂災害警戒区域(イエローゾーン)」の土地購入という選択に繋がるケースが想定されます。 人口流入が想定される被災地に新規に移住することは、被災地の過疎化を妨げることに寄与する一方で、被災経験がない故に、災害へのリスク認識が薄くなることが問題点として挙げられます。

土砂災害被災地への移住活動活発化への懸念は課題の一例でしかありません。災害が起こった際のインタビューで、「こんな災害は住んでいて初めてだ」と言う人が見受けられます。 完全に安全なエリアなどなく、土砂災害警戒区域に住んでいなくても、被害に遭うかもしれない、という危機意識を持った上で各々が災害に備えることが何よりも命を守るために必要です。 安易な住宅の建設や購入が人的被害を増幅させることがないように、より一層の議論と検討を進める必要があるでしょう。

使用した図表・バックデータ

1.

白書・審議会名 内閣府「防災白書」 掲載年度 2019年
掲載図表のURL
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h31/zuhyo/img/zuhyo_t012.gif
出典元 / 統計名  国土交通省/ 国土交通省ホームページ
図表データ対象年 1982年 ~ 2018年
バックデータURL 
https://www.mlit.go.jp/report/press/sabo02_hh_000049.html

2.

白書・審議会名 国土交通省「土地白書」 掲載年度 2019年
掲載図表のURL
https://www.mlit.go.jp/common/001294337.pdf 80P
出典元 / 統計名  国土交通省 / 国土交通省ホームページ
図表データ対象年 2001年 ~ 2017年
バックデータURL なし

3.

東京都建設局「災害防止法 よくある質問と回答」 https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/jigyo/river/dosha_saigai/map/kasenbu0081.html#Q3, 最終閲覧日2021年9月30日)

4.

国土交通省「令和元年版 土地白書」115頁 (https://www.pref.aichi.jp/soshiki/sabo/aichi-dosyahou-gaiyou.html, 最終閲覧日2021年10月3日)

5.

厚生労働省「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」9頁 (https://www.mhlw.go.jp/content/11911500/000683359.pdf, 最終閲覧日2021年8月23日)

6.

NHK WEB 「マイホーム 買った地域は浸水エリア」2021年7月27日 (https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210727/k10013152061000.html, 最終閲覧日2021年10月3日)