04. テレワーク導入のメリットと課題は何?

コーエンズ英理(東北大学法学研究科 公共政策大学院 修士課程)

2021.08.27

新型コロナウイルスの蔓延とともにテレワークの利用は拡大しました。2020年6月に開催された第26回産業構造審議会総会では、 テレワーク導入企業が2020年3月から4月の短期間で、24%から62.7%に急拡大したことが示されました。これは、2019年6月14日に閣議決定された 「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」における、2020年にテレワーク導入企業を平成24年度比で3倍の34.5%にするという政府目標を大きく上回っています。

そもそもテレワークの導入はどのような点でメリットがあるのでしょうか。
  1点目は働き方改革を促進する点です。テレワークは労働者の多様なライフスタイルに応じた働き方を可能にし、例えば育児や介護と仕事の両立を可能にします。 それは、離職率の低下、労働人口の確保、長時間労働問題の改善等、様々な社会課題に資すると考えられます。総務省の2017年版「情報通信白書」に掲載されている 「図表4-2-1-4 テレワークを利用する事で変化したプライベートの時間(複数回答)」によると、テレワークを利用することが、家族と過ごす時間、 育児・家事に割り当てる時間の増加に寄与していることがわかります。

2点目は緊急時に事業の継続・早期復旧を図ることに寄与することです。ヒト、モノ、情報といった利用可能な資源が制約される緊急事態において円滑な 業務実施・継続を可能にする1つのツールとして、テレワークは有効だと考えられます。

政府もこのようなメリットを踏まえ、テレワークの導入を促進しています。2013年6月14日に「世界最先端IT国家創造宣言」を閣議決定し、 テレワークを就業形態の一つとして波及させ、多様で柔軟な働き方を選択できる社会の実現のツールとして用いる事を明言しています。また、先述した 「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」では、事業者と雇用契約を結んだ労働者が自宅等で働く雇用型テレワークの割合を2014年度比で 2倍の15.4%にする政府目標も提示されました。

良いこと尽くしに思えるテレワークですが、懸念事項もあります。それは労務管理が困難を極める点です。 テレワークを用いて働く時間の柔軟化を図るとしても、労働時間の適正な把握は使用者側の義務として存在します。ここで適正な把握を行うことの弊害の一つになるのがテレワークにおける中抜けです。 育児や介護の両立を図る事を目的としているテレワークにおいて、通常勤務よりか遥かに中抜けの頻度が高いこと考えられます。厚生労働省の 「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」によると、中抜け時間を、①開始と終了の時間を報告させ、始業又は終業時間を調整することで、 休憩時間として扱うこと②時間単位の年次有給休暇として取り扱うこと、が可能です。しかし、適正な労務管理を行えていない企業の場合、業務状況が見えず、 長時間労働あるいは労働時間の水増しといった問題が起きることが想定されます。
   人との接触、「密」の回避のためのツールとして急速に導入が進んだテレワークは、働き方そのものをダイナミックに変えました。一方で、今まで見えてこなかった課題がこれから顕在化することも考えられます。 テレワークの導入が労使共に有益なものになるよう、引き続き動向の分析と課題の検討が求められていると言えるでしょう。

使用した図表・バックデータ

1.

白書・審議会名 総務省「情報通信白書」 掲載年度 2017年
掲載図表のURL
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/image/n4201040.png
出典元 / 統計名  厚生労働省/ 平成26年度テレワークモデル実証
図表データ対象年 2014年 〜
バックデータURL なし

2.

白書・審議会名 経済産業省 第26回産業構造審議会総会」 掲載年度 2020年
掲載図表のURL
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sokai/pdf/027_s02_00.pdf(77頁)
出典元 / 統計名  東京都防災ホームページ公表資料を基に作成/記載なし

3.

政策会議「世界最先端IT国家創造宣言について」(2013年6月14日)16頁 (https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20130614/siryou1.pdf, 最終閲覧日2021年8月23日)

4.

内閣府 仕事と生活の調和推進室「テレワークに係る数値目標(改訂案)について」(2017年6月)2頁 (http://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/hyouka/k_41/pdf/s2-5.pdf, 最終閲覧日2021年8月23日)

5.

厚生労働省「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」9頁 (https://www.mhlw.go.jp/content/11911500/000683359.pdf, 最終閲覧日2021年8月23日)

6.

厚生労働省 第7回労働政策審議会労働政策基本部会「資料2 雇用型テレワークについて」(2018年4月20日)2頁 (https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000204094.html, 最終閲覧日2021年8月27日)